ページトップ

一般の方へ:市民のための薬と病気のお話

  • 一般の方へindex
  • 日本臨床薬理学会ってどんな団体?
  • 薬の上手な使い方
  • 新薬開発と臨床試験はなぜ必要なの?
  • 市民のための薬と病気のお話

市民のための薬と病気のお話

病気の質問箱

悪性腫瘍

Q2急性白血病の薬物療法

A2

多剤併用化学療法

次に述べるM3という特殊なタイプをのぞき、治療の基本は、抗がん薬を組み合わせて行う多剤併用化学療法です。

一般に急性白血病では、発症時体内には2-3kg(数兆個)の白血病細胞があると考えられています。1~2度の治療で末梢血所見が改善し、社会復帰可能な状態となることを完全寛解と呼びます。しかしこの時点でも理論上、体内には必ず数百万~数億個の白血病細胞が残っています。

このため、放置すると再発をまぬがれず、寛解をさらに強固なものとする地固め療法や、それに続く維持・強化療法をおこない、白血病細胞を限りなく零に近い所迄減少させます(トータル・セル・キル,total cell kill)。

(1)急性骨髄性白血病

急性骨髄性白血病に用いる代表的薬剤(キードラッグ)は2つあり、1つはシタラビン(Ara-C)(商品名キロサイト)と呼ばれる代謝拮抗薬に分類される薬剤で、日本では、その誘導体であるエノシタビン(BHAC, 商品名サンラビン)も使われます。もう1つは、アントラサイクリン系薬剤と呼ばれる系統の薬剤で、ダウノルビシン(DNR,商品名ダウノマイシン)が一般的ですが、最近はイダルビシン(IDA,商品名イダマイシン)もよく使われます。

シタラビンは通常100~200mg/㎡を持続点滴静注で投与しますが、再発例・難治例には2~3g/㎡という大量を投与する(シタラビン大量療法)と有効であることが証明されています。一方、アントラサイクリン系薬剤には特徴的な副作用として心障害があり、総投与量に比例しておこりやすくなると言われています。

この2薬に加えて、6-メルカプトプリン(6-MP,商品名ロイケリン)やエトポシド(ETP, VP-16, 商品名ラステット,ベプシド)などが用いられますが、3薬目、4薬目を加える方がよいと言う明確な証明は、されていません。

(2)急性リンパ性白血病

急性リンパ性白血病に対しては異なるキードラッグが用いられるため、骨髄性かリンパ性かの診断を治療開始前にしっかりつけることが重要です。

急性リンパ性白血病には通常ビンカ・アルカロイドといわれる系統の薬剤、なかでもビンクリスチン(VCR,商品名オンコビン)及び副腎皮質ステロイドであるプレドニゾロン(PSL,商品名プレドニン)の二薬が代表的薬剤であり、加えて、アントラサイクリン系薬剤のうち、ドキソルビシン(DOX,商品名アドリアマイシン)と、酵素薬であるL-アスパラギナーゼ(L-ASP,商品名ロイナーゼ)が用いられます。

副作用としては、プレドニゾロンには、血液毒性こそありませんが、感染症や糖尿病を合併しやすく、消化性潰瘍,骨粗鬆症,精神症状,満月様顔貌,肥満など多彩な副作用があります。

ビンクリスチンには神経毒性があり、手足のしびれ・運動障害、消化管の運動障害による便秘,麻痺性腸閉塞などがおこります。

ドキソルビシンでは、ダウノルビシン同様心毒性が問題となります。L-アスパラギナーゼには、低フィブリノーゲン血症,糖尿病,肝障害・膵障害などがあり、また本薬が蛋白質製剤であるため、まれに、アナフィラキシー・ショックをおこします。

(3)治療効果

成人では、骨髄性の方が予後がよく、完全寛解率は約80%,治癒率は30-40%程度です。一方小児では、リンパ性の方が薬剤が効きやすく、完全寛解率は約90%、治癒率は60%に達しています。

分化誘導療法

最初に急性白血病は染色体の異常の結果、血液母細胞のあるレベル以上の分化・成熟が障害され、未熟な白血病細胞が増殖する疾患であると述べました。

(1)で述べた多剤併用化学療法は、その異常な細胞をすべて抗がん薬により殺してしまおう(トータル・セル・キル)という治療法です。

一方、もし分化・成熟の障害が白血病の原因であるとすれば、白血病細胞に再び分化・成熟をおこすことができれば、白血球の自然な成長とそれに続く寿命がつきることによる細胞死という流れを回復させることにより、治療を行うことが可能です。

この様な方針に基づく治療を分化誘導療法と呼び、従来、いくつかのがんの分野で試みられてきましたが、初めて臨床的に成功をおさめたのが、FAB分類M3にあたる急性前骨髄球性白血病です。

本疾患では、15番染色体と17番染色体の間に組みかえによる転座という異常がおこりその結果、15番染色体のPML遺伝子と17番染色体のRARα(レチノイン酸受容体α)遺伝子が融合し、PML-RARα融合遺伝子ができます。この異常な遺伝子が原因で、白血球が前骨髄球という未熟な細胞のレベルを超え分化することができず異常な前骨髄球が著増し、発病します。

全トランス型レチノイン酸(ATRA)は、ビタミンAの誘導体です。本疾患に対しATRAを経口で十分量投与すると、ATRAはPML-RARαの作り出す異常蛋白のレチノイン酸受容体部分に結合し、その作用の結果分化の抑制が解除され、白血病細胞は一斉に分化をおこし、完全寛解に到達します。

臨床的には、ATRAだけの治療では、しばしば耐性がおこり再発するので、通常の化学療法を続けておこないます。このビタミンAで分化誘導によりがんをなおすという画期的な治療の結果、急性前骨髄球性白血病は、それ迄の最も予後の悪い白血病から、最も予後の良い白血病に変化をとげました。

但し、ビタミンを使うだけといっても、治療開始時に血液中に白血病細胞が多量にある場合、それが一斉に分化することにより増加した末梢血中の成熟白血病細胞が肺に浸潤し、その血管内皮細胞などに障害をおこし、低酸素血症、心不全などで死亡することがあり、レチノイン酸症候群と呼ばれています。

血液がんの専門家による注意深い治療が必要となります。

(回答者:上田孝典)


ページトップへ