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一般の方へ:市民のための薬と病気のお話

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市民のための薬と病気のお話

ちょっと教えて

薬

Q1多くの種類の薬を一度に飲むと危険?

私はクスリが大好き人間です。でも、「一度に多くの種類のクスリを飲むと薬物相互作用が起こって危険だよ!」と言われますが。本当ですか?

A1

身近な薬物相互作用の例をあげて説明しましょう。

55歳の男性Aさんは過去に軽い脳梗塞を起こした病歴があります。家の近くのかかりつけ医師から、血液がドロドロしているので、再び脳梗塞を起こさないようにと、血液をサラサラにする作用のあるワルファリンカリウム錠という抗血液凝固薬剤を処方されていました。10月のある日の朝方、急に虫歯による痛みを覚えました。昼休みに都心のオフィスビル内にある歯科クリニックへ行き急患で診て貰いました。虫歯の治療を受け、帰り際に消炎鎮痛薬インドメタシンの記された処方箋を受けました。早く治したかったので、歯科クリニックの1階下のフロアーにある調剤薬局で薬をもらいました。2日後、歯を磨く際に歯茎から強く出血しました。また、オフィスの机の角に太股部をぶつけた際に、強い青アザができてしまいました。

この事例は、抗血液凝固薬ワルファリンカリウム錠剤(薬剤名ワーファリン、ワルファリンカリウムHD、アレファリンなど)と消炎鎮痛薬インドメタシンのカプセル、坐剤(薬剤名インダシン、インテバン、イドメシン、インテダール、インデラニック、インメシン、インメタン、ミカメタンなど)の薬物相互作用が原因であることが分かっています。薬もしくは薬物と薬剤は違いますが、これらいずれの薬剤も単独で使用する際には、安心して使用できる薬剤です。もちろん、良く効きます。しかし、この事例は2剤が同時に投与されたために引き起こされた薬物相互作用によるものです。

ワルファリンの錠剤は1日1回1~5mgを用います。一方、インドメタシンのカプセルは1回25mgを1日1~3回用います。両薬剤とも経口的に服用しますと、胃の中で薬剤が壊れ、中からワルファリンカリウムとインドメタシンが溶け出します。その後、胃の収縮により胃から小腸へ運ばれ、小腸から吸収されて循環血液中に入ります。ワルファリンとインドメタシンともに循環血液の流れに乗って体の中をくまなく巡り、ワルファリンは、例えば足のつま先などの末梢でできた血栓の種がそれ以上に固まって大きくならないように凝固を阻害します。

一方、Aさんの場合、インドメタシンは歯の炎症部位にたどりついて炎症を鎮めます。ところがワルファリンとインドメタシンともに循環血液中ではアルブミンとよばれる蛋白質に強く結合して存在します。ワルファリンは1日1回1~5 mgを錠剤として服用しますが、インドメタシンは25 mgカプセルを1日3回も服用しますので、血液中にはワルファリンよりもインドメタシン分子の方が圧倒的に多く存在します。多勢に無勢の原理から分かりますように、インドメタシンがアルブミンの結合部位からワルファリンを追い出します。アルブミンと結合しているワルファリン分子は薬理効果を示さず、アルブミンと結合していない遊離型(非結合型)ワルファリン分子が薬理効果、抗血液凝固作用、を発揮しますので、インドメタシンにより追い出された遊離型ワルファリン分子により抗血液凝固作用が強くなります。また、インドメタシンの副作用として、体のいたるところの毛細血管から出血し易くなります。従って、ワルファリンとインドメタシンの2種類の薬物が相互に作用をし合って、血液凝固が抑えられますので、Aさんでは歯茎から出血したり、軽い打撲によって皮下出血による青あざができたりしたのです。

(回答者:高田寛治)


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