市民のための薬と病気のお話
薬、薬物、薬剤の違いはなに?
皆さんはこの違いが分かりますか?
日常生活の中で使っている“クスリ、薬(ドラッグ)”とは“体に作用するもの”の全てを意味します。クスリには、慢性の腸炎に効果のある御嶽百草丸や陀羅尼助丸、子供の夜泣きに効く樋屋奇應丸などの伝統的な生薬の類から咳止めシロップ、禁煙用パッチ(貼り薬)、総合ビタミン剤あげくは麻薬まであらゆるものが含まれます。ところが、生薬など天然由来のくすりは毎年の作柄によって効果に影響が出ます。日照りが長く続いた年と、冷夏の年では植物体内で生合成される薬効成分の量に差が生じます。また、麝香(じゃこう)にいたっては、国際野生動物保護条約の影響で現地の収穫量が減少していたにもかかわらず、日本への輸入量が増大するという怪奇現象がありました。そこで、有効成分を分離・抽出・精製してその化学構造を明らかにした化学物質が“薬もしくは薬物”です。化学物質として薬が取り出された時には、通常、原末(げんまつ)と呼ばれる結晶や粉の状態です。製薬会社は、この薬の原末に賦形剤を加えてカプセル剤として、あるいは打錠して錠剤として販売します。このような最終的な医薬品製品の形態を薬剤(もしくは製剤)と呼びます。
では、薬剤にはどのような種類があるでしょうか?
経口剤と呼ばれる飲み薬は医薬品の市場で約60%を占め、最も市場占有率の高い薬剤です。以下、注射剤(約20%)、外用剤(軟膏剤、貼付剤、ローションなどで約8%)、点眼剤、点鼻剤、坐剤、吸入剤・・・と続きます。このように医薬品製剤として供給されている製品の個々の形態を総称して剤形と呼びます。薬の原末だけで最終製品となる薬剤にすることはできません。必ず医薬品添加物(製剤添加物)とよばれる不活性な(薬理効果のない)化合物を加えて薬の原末を加工・成形して最終製品とします。例えば、錠剤化する場合であれば、薬の原末に賦形剤(乳糖など)、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などを混和した後、打錠機の臼の中に入れ、その後、杵で強く打ち付けることにより錠剤を作ります。薬の原末だけでは錠剤を打つことはできません。固まらないからです。薬物原末を相互に固める目的で結合剤を加えます。また、崩壊剤を配合しておかないと、錠剤が胃の水分で壊れません。極端な例ですが、打錠の際に杵に高圧をかけすぎて錠剤を打ちますと、患者さんが水で錠剤を服用されましても、胃・腸さらに大腸を通過していく間にも錠剤は崩壊せず、翌日、糞便中にそのままの姿で排出されてしまいます。この場合、薬物自体は強力な薬効を有していながら、錠剤は全く効果を示さないという結末になります。このような悲惨な結果とならないように、製薬会社には製剤研究所があり、製剤の崩壊とそれに続く薬物の溶解性を良くして確実に吸収されて効く薬剤の開発研究を行っています。
高血圧、高脂血症などの生活習慣病治療薬の領域においては、1日3回、毎食後に服用する薬剤よりも、1日1回の服用で24時間にわたり薬効の得られる薬剤、すなわち徐放性薬剤に患者さんのニーズは移ってきています。徐放性薬剤は製剤添加物を巧みに配合して作られていますから、服用時に半分に割って飲んではいけません。また、口の中でかみ砕いてもいけません。壊すことにより徐放性がなくなってしまうからです。特に、高血圧治療薬の徐放性薬剤(薬剤名オイテンシン、ロプセロールSR、セロケンL、インデラルLA、サワタールLA、ミケランLA、ブロクリンL、ベトリロールL、デタントールR、アダラートL、アダラートCR、アロトップL、エマベリンL、カサンミルS、キサラートL、ケパクルL、コリネールL、トーワラートL、ニフェスロー、ニフェラートL、ニレーナL、ヘルラートL、ラミタレートL、セパミットR、ヘルベッサーL、カプトリルR、ニコデールLA、ベルジピンLA、アポジピンL、パルペジノンLA、ラジストミンLなど)には1回服用タイプの錠剤などと比べて、約2倍量の薬が配合されていますから、口の中でかみ砕いて服用しますと、一気に2倍量の薬が小腸から吸収され、副作用でふらついたりしますから要注意です。徐放性薬剤にはこのようにlong actingの頭文字であるL(あるいはLA)やsustained release (slow release)の頭文字のS(あるいはSR)、controlled release の頭文字の組み合わせであるCR、retard preparationの頭文字のRなどといった略称が商品名に付け加えられています。
(回答者:高田寛治)