市民のための薬と病気のお話
薬によって1日1回、2回、3回服用とあるのはなぜ?
薬によって1日1回、2回、3回服用とあるのはなぜですか?
「1日3回食後服用」が一般的な服薬回数ですが、これにはちゃんとした理由があります。
第一の理由は胃腸障害を避けるためです。経口剤(飲み薬)の最も頻度の高い副作用は、胃のむかつき・不快感などの胃腸障害です。食後服用ということは、食事が終わった後30分以内に薬剤を飲むことをさします。この場合ですと、胃の中で薬が食べ物と混ざり、薬が直接胃や腸の粘膜に接触しません。したがって、胃腸への副作用が出にくくなります。
第二の理由は、薬の半減期として約8時間の値を持つ薬が多いのです。ただし、すべての薬の半減期が8時間ではありませんから注意してください。薬物動態の項目で説明しましたように、薬剤を繰り返し服用する場合の投与間隔をその薬の半減期の値と等しくなるように設定するのが、最も基本的な方法です。なぜなら、繰り返し服用を行った場合の蓄積率は、ちょうど2倍になるからです。薬剤の投与間隔が8時間だと、1日3回飲むということになります。同じように、半減期が約24時間の薬剤は、投与間隔を24時間に設定しますので、1日1回飲むことになります。また、半減期が約12時間の薬剤は、投与間隔を12時間に設定しますので、1日2回飲むことになります。
したがって、「1日1回飲む薬剤は効きめが最も強く、次が1日2回飲む薬剤で、1日3回飲む薬剤は効果が弱いので頻繁に飲む」ということではありません。半減期の長い薬剤は循環血液中に長時間とどまりますので、薬としての効果が強いのではなく、効果が長続きしやすいということを意味します。逆に、半減期の短い薬剤は、服用した後に循環血液中から短時間に処理されて消えていきます。
したがって、その薬の最小有効血中濃度を維持するために頻繁に薬剤を飲んでいただかねばならないのです。しかし頻繁に服用するのはとても面倒なことですので、1日1回の服用で24時間にわたり効果の得られる徐放性薬剤が開発されています。
例えば、風邪の徐放性治療剤であるコンタック600ST(ただし12時間持続タイプ)やぜん息治療薬テオフィリンの徐放性薬剤(商品名はテオドール、テオロング、スロービッド、アーデフィリン、セキロイド、テオスロー、テオフルマート、テルダン、テルバンス、フレムフィリンなど)が該当します。
気管支ぜん息の発作は夜中から明け方にかけて多くおこります。午前1時から早朝7時頃までが気管支ぜん息にとっては、「魔の時間帯」などといわれていました。ところが、ぜん息患者さんがテオフィリンの徐放性薬剤を1日1回夕食後に飲んでおけば、肺機能の低下する夜中から明け方にかけて有効血中薬物濃度が維持され、ぜん息発作から解放されるようになりました。徐放性薬剤の技術はぜん息の治療に画期的な進歩をもたらしました。
これらの徐放性薬剤では、薬剤から薬が12時間もしくは24時間にわたりゆっくりと溶け出すように作られていますので、徐放性薬剤1錠あるいは1カプセル中には薬が半日分あるいは1日分も含まれています。したがって、徐放性薬剤を飲む場合は、絶対に口の中でかんではいけません。もしかんだら、半日分あるいは1日分の薬が一度に溶け出してしまって危険です。
(回答者:高田寛治)